【感想・考察】人間椅子【江戸川乱歩】

感想・考察 (6) 物語
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※ネタバレ注意!
この記事には作品のネタバレが多く含まれております。未読の方はご注意ください。

ロジィ
ロジィ

江戸川乱歩の人間椅子は、大正14年『苦楽』9月号に掲載された短編小説だ。

ナラ
ナラ

奇妙な物語っていうのはどうしてこうも引き込まれてしまうんだろうね!

ナラの感想

続きが気になって仕方がない!

ミステリー作品っていうのは、やっぱり読み終わるまで続きが気になっちゃうものだね。

ストーリーとしては、主人公である閨秀作家(女性作家さんだ)の佳子さんが不気味なファンレターを受け取るところから始まる。

そして、読者は佳子さんと一緒にこの奇妙なファンレターを読み進めていくことになるんだけど、 もしこれが佳子さんの立場だったなら、絶対に最後まで読んじゃうと思う。

もし、このファンレターを最後まで読まずに済む方法があるとしたら、それはきっと中を一切見ずに捨ててしまうことだろうね。

だって、もし、このファンレターの少しだって読んでしまったら、ほんの少しの好奇心から次の行、次の行と読んで行って、途中からは嫌な予感から最後まで読むしか無くなっちゃうんだ。

人の心理を利用した、巧妙な文章だと思ったね。

「人間椅子」は誰が書いたのか

「人間椅子」というファンレターに擬態した原稿は、結局差出人によってフィクションだってことになっている。

でも、それにしては、まるで佳子さんのプライベートを知っているかのような口ぶりで書かれているから、読後にもやもや感が残るんだ。

一体、真実はどこにあるんだろう。

もし、「人間椅子」が差出人の言う通りフィクションなら、一体誰が書いたものなのかを確かめたくなる。

そして、もしフィクションでないなら、佳子さんにとっては世にも悍ましい結末だよ。

いずれにしろ、手紙を読んだ彼女は真相が分かるまで、仕事に手がつかなくなるだろうなぁ。

創作の中の登場人物ではあるけれど同情しちゃうね。

残された謎

差出人の正体は、作中で明かされることが無い

そして、「人間椅子」を読んだ後の佳子さんの行動も明かされていない。

だから、読者は残された謎について、想像を巡らせることしか出来ないんだ

例えば、「人間椅子」がフィクションだとして、一体この作品を書ける人間は誰なのか。

佳子さんが指示通り、書斎の撫子の鉢植えにハンカチを掛けたなら、一体誰が彼女を訪れてくるのだろうとか、読んだ後も色んな想像が頭の中を巡るんだ。

それこそが、江戸川乱歩という作家の狙いだったのかもしれないね。

ロジィの分析

手紙が時間を戻し、視点を切り替える

何気なく二行三行と目を走らせて行く内に、彼女は、そこから、何となく異常な、妙に気味悪いものを予感した。そして、持ち前の好奇心が、彼女をして、ぐんぐん、先を読ませて行くのであった。

江戸川乱歩『人間椅子』青空文庫

物語の世界には二つの時間が存在している。

物語言説の時間物語内容の時間だ。

物語言説小説の文章そのもの物語内容とはその文章が表している内容のことを指す。

例えば、ある物事がA→B→C→Dの順番で起こったとしたとき、この起きた順番通りに出来事が配置されているのが物語内容の時間である。

しかし、物語を語るときはこの時間通りに語る必要はない。

D→A→B→Cのように物語上で時間を並びかえることが可能だ。

これを物語言説の時間という。このように語る順番を入れ替えて語る手法を錯時法と呼ぶ。

錯時法には2種類ある。後説法先説法だ。

後説法は基準となる物語の時点に対して過去のことを語る場合のこと、一方の先説法は基準よりも先のことを語る場合のことである。

主人公の佳子は、仕事に取りかかる前に彼女宛に送られてくる未知の人々からの手紙に目を通すのを日課としていた。

佳子の日常生活という基準点から手紙を読むことで男の過去へとジャンプし、男の視点で再び基準点へと戻っていく。

人間椅子は後説法錯時法によって語られている。

不気味な手紙が現実へと急接近する

買手はY市から程遠からぬ、大都会に住んでいた、ある官吏でありました。

江戸川乱歩『人間椅子』青空文庫

この物語はおおよそ5つのパートに分けることができる。

手紙を読み始めた佳子(物語内容の時間:D)

椅子職人として暮らす男(物語内容の時間:A)

椅子としてホテルで暮らす男(物語内容の時間:B)

椅子として佳子の家で暮らす男(物語内容の時間:C

手紙を読み終えた佳子(物語内容の時間:E)

佳子が本当に恐怖しはじめたのは、おそらくBからCへと場面が移動する瞬間、男が自分の領域への侵入を匂わせたところからであろう。

そこからこの不気味な物語は佳子の住む現実世界へと急接近してくる。

最後に謎が残る物語

別封お送り致しましたのは、私の拙い創作でございます。

江戸川乱歩『人間椅子』青空文庫

はたして、佳子が受け取った手紙は本当に創作だったのか。

その真実は読者に委ねられて人間椅子の幕は閉じる。

最後に謎が残る物語のことをリドルストーリーという。

人間椅子は錯時法を用いた作品であるものの、その構成はシンプルでわかりやすい。

このわかりやすさが、最後に残された謎を引き立てているように感じた。

ナラとロジィの「人間椅子」

ナラ
ナラ

最後に謎が残る物語のことをリドルストーリーっていうんだね

ロジィ
ロジィ

うむ。ヒトの社会でも歴史の古い作品形態で、1884年に発表されているフランク・ストックトンの女か虎かが有名だな

ナラ
ナラ

新世紀エヴァンゲリオンなんかもリドルストーリー?

ロジィ
ロジィ

そうかもしれないね。あの作品もリドル(謎かけ)が多く、かなりのファンが作品の考察に熱中していたみたいだからね

ナラ
ナラ

想像する余地が多いのが面白さの秘訣なのかな

ロジィ
ロジィ

んー、それは賛否が分かれると思うが、私としては読後にモヤモヤがある方が心に残りやすいな

ロジィ
ロジィ

もしかしたら、物語の面白さというのは謎が解明される瞬間よりも謎に直面した葛藤そのものにあるのかもしれないね

ナラ
ナラ

謎に直面したときの葛藤か。うわさ話が生まれるときに似ているかも

ロジィ
ロジィ

うわさ話?

ナラ
ナラ

自分たちに関連する事象についての情報が不明確な場合、心理的に不安になるんだって

ナラ
ナラ

その不安を解消するために自分達の共有する物語が必要になる。それがうわさ話

ロジィ
ロジィ

なるほどね。リドルストーリーに残された謎を補完しようとして、頭の中でうわさを生み出すように自分なりに物語を作りだそうとしている

ロジィ
ロジィ

自分なりに作った物語の結末は、作中の情報からなんとなく形にすることはできるけど、それが正解かどうか分からない。だからモヤモヤするのか

ナラ
ナラ

うん、だから人間椅子みたいに謎を残して終わる作品は心に残りやすいのかもね

コメント

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