【感想・考察】蜆【梅崎春生】

梅崎 物語
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※ネタバレ注意!
この記事には作品のネタバレが多く含まれております。未読の方はご注意ください。

ロジィ
ロジィ

梅崎春生の蜆は1966年に発行された「梅崎春夫全集 第2巻」に収録されている

ナラ
ナラ

青空文庫で読める作品だよ

ロジィ
ロジィ

戦争で荒んだ人の心をまざまざと描いた作品で、心にくるものがある短編小説だね

ナラの感想

僕とあの男

もの悲しく、どこか廃退とした空気に包まれている作品。

読んだ後は、深い虚無感のようなものが残ったよ。

戦後の日本を描いた作品で、敗戦の絶望感や、なにかに裏切られたという悲哀をリアルに感じる作品だ。

この物語は、”僕”と”あの男”という二人の人物を主軸にしたお話。

あの男とは省線電車の中で出会い、彼は寒そうにしていた僕に自分の外套をあげた。

でも、あの男は僕と何度か出会ううち、やがて自らあげたはずの外套を僕から奪いとる。

何だか変な話。

しかも、僕が男に何かをしたとか、外套を奪い返さなくちゃいけないような事件っていうのは何もなかった。

じゃあ、なんでそんなことをしたのって?

表面上は何もなかった。

でも、男の心の中では、凄く大きな、それこそ天地が引っくり返るような事件があったんだ。

移ろう心

元々、男は正義感のある心根正しい人間だった。

勤めていた会社でも真面目なヒトで通っていたし、彼自身善良であることを自分に課していた。

そんな彼が変わってしまったのは、彼の価値観がガラリと変わってしまったからに他ならない。

それは、彼が信じていた正しさが全部偽物だったってことで、こんなに残酷なことはないんじゃないかな。

別に、ボクは彼の正しさを偽物だなんて思わないけど、そんなことは重要じゃない。

問題なのは彼自身がそれを偽物だと思ったこと。

その薄暗い疑惑は確信に変わって、彼の中の善は唾棄すべき偽善になってしまった。

なんともやるせない気持ちになるよね。

灰色の世界

戦後。それも敗戦後っていうのは、酷く特殊な世界だと思う。

特に日本人にとってこの敗戦は、きっと日本人の価値観そのものの否定だったんじゃないかな。

この作品を読んで、少なくともボクにはそう感じられた。

そんな極大の衝撃のあとの、なんとももの悲しい世界。

だから、こんなにもこの作品に色を感じないんだ。

誰もが自分が生きるのに精いっぱいで、他人を思いやることなんて二の次。

善も悪もなく、ただ生きることだけが正しい。

もしもボクがこの時代に生きていたら、同じようにこの灰色に飲まれちゃうのかもしれない。

そんなことないって否定することができないんだ。

それがなんだか悲しい。

ロジィの分析

視点の切り替わり

「翌日船橋に行くと言ってたが、行ったのかね」

「行ったよ。話は其処から始まるんだ」

梅崎春生『蜆』青空文庫

この作品は、主人公の自身の物語ではなく、僕が出会った男の物語をまるで代筆しているような構造をしている。

この物語の骨子は僕の語りではなく、男の語りの部分

そこは長い台詞として扱われていて一人称がからなっても違和感がないように作られている。

過去から、更に過去へと

それよりも渋谷の駅のことをお前に話そう。

梅崎春生『蜆』青空文庫

男は語りの中で過去を振り返り僕と出会うまでの経緯を説明している。

読者の視点から見たらこれは回想シーンとなる。

時間軸で見ると喫茶店にいる現在から男が語る数日前の出来事、その中で回想に入り、僕と出会うまでの過去へと遡っていく。

この作品は現在→数日前の過去→それよりも前の過去→数日前の過去→現在という時間展開の物語になっているのだ。

外套がカメラの役割をしている?

「この外套、要るならやるよ」

「何故くれるんだね」

「だってお前は寒いのだろう」

「そうか。ではくれ」

梅崎春生『蜆』青空文庫

この作品は外套を中心に視点の切り替わりが行われているように見えた。

外套がまるでカメラのように登場人物たちの行動を追っている。

この外套こそが我々を物語に誘う神の視点であり、蜆という作品の水先案内人なのかもしれない。

ナラとロジィの「蜆」

ロジィ
ロジィ

灰色の世界観というのは私もそう感じたな。とくに電車のシーンは壮絶だった

ナラ
ナラ

あー、あそこね。あれは堪えたし、困惑したよ

ロジィ
ロジィ

困惑か

ナラ
ナラ

うん、戦争は物や命だけじゃなく、心まで奪ってしまったのかーって

ロジィ
ロジィ

繊細な絶望感のある作品だよな。「誰だっていいじゃねぇか。明日の新聞読めば判るよ」という台詞の威力はすごかった。

ロジィ
ロジィ

ちょっと面白かったが

ナラ
ナラ

うわー、ヒトでなし~

ロジィ
ロジィ

まぁ、私ウサギだしな

ナラ
ナラ

ボクは「日本は敗れたんだ。こんな狭い地帯にこんな沢山の人が生きなければならない。リュックの蜆だ。満員電車だ。日本人の幸福の総量は極限されてんだ。」ってとこがグッときたな。

ロジィ
ロジィ

ここは時代を経ても共感できそうな部分だよな。どこか他者の不幸に対して淡泊にならざるを得ないというか

ナラ
ナラ

時代が違っていても、どこか重なるところがあるから共感できるんだろうね

ロジィ
ロジィ

感覚的な話だが「蜆」の文章には音がしない

ロジィ
ロジィ

全体的に静謐な雰囲気で、音を感じるのは蜆のあのプチプチという音だけで、電車のシーンなんかは慌ただしいんだけど、やっぱり無音なんだよ

ナラ
ナラ

あー、言われてみるとそうかも

ナラ
ナラ

だからかなぁ

ロジィ
ロジィ

なにが?

ナラ
ナラ

ボクは「蜆」を読んでいてホラー小説のようにも感じたんだよね

ロジィ
ロジィ

ほう

ナラ
ナラ

ポケットの中の蜆とか、舌足らずな奥さんとか、陰鬱で静かな空気ってだけじゃなくて、どこか不気味に思えて怖かったよ

ロジィ
ロジィ

たしかにポケットの中の蜆は解釈が難しいシーンだったな

ナラ
ナラ

あのシーンで、蜆は呪いのようなものかも?って思ったよ。義侠心の厚い闇屋のおじさんが脱落して、今度は男が蜆を売るようになった。男もいずれは善の気持ちがふっとわいて電車から落っこちるんじゃないかって

ロジィ
ロジィ

なるほど、面白い解釈だな。私は「社会(リュック)からはじき出された善い人達(蜆)」という皮肉かと思ったよ。偽善者たちは今日もそいつらを酒の肴にして生きてます、みたいな

ナラ
ナラ

うわー、辛辣~

ロジィ
ロジィ

なんとも心に突き刺さる作品だった

ナラ
ナラ

だねー。痛々しいけど嫌いになれない。むしろ好きだって言える作品だったよ

コメント

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